雇用契約書、何を確認すれば良い?スタートアップが押さえるべき基本と注意点
スタートアップの成長には、優秀な人材の獲得が不可欠です。初めて従業員を迎え入れることは、事業を加速させる大きな一歩となるでしょう。しかし、新たな仲間を迎えるにあたり、雇用契約書をどのように作成し、何に注意すれば良いのか迷われる経営者の方も少なくありません。
このQ&Aでは、スタートアップが初めて従業員を雇う際に知っておくべき雇用契約書の基本と、トラブルを未然に防ぐための重要なポイントについて解説します。
雇用契約書とは何でしょうか?なぜスタートアップに必要なのでしょうか?
雇用契約書とは、会社と従業員の間で、働く上でのルールや条件を取り決めるための書面です。口頭での合意も法的には有効な契約とみなされますが、内容が曖昧になりやすく、後々の認識の相違やトラブルの原因となる可能性があります。
スタートアップにとっては、特に以下の点で雇用契約書が重要となります。
- トラブルの未然防止: 労働時間、賃金、業務内容、休日などの条件を明確にすることで、従業員との認識のずれを防ぎ、労使間の不要なトラブルを回避できます。
- 事業の安定性確保: 従業員の権利と会社の義務を明確にすることで、予期せぬ法的リスクを低減し、事業運営の安定性を高めます。
- 従業員の安心感: 働く上での条件が明確になっていることは、従業員が安心して業務に取り組む上での基盤となります。
雇用契約書に必ず盛り込むべき項目は何ですか?
労働基準法などの法令に基づき、雇用契約書(または別途交付する労働条件通知書)には、従業員に必ず明示しなければならない項目が定められています。主な必須項目は以下の通りです。
- 契約期間に関する事項
- 無期雇用か、有期雇用か(期間の定めがある場合、その期間)。
- 就業場所および従事すべき業務に関する事項
- 具体的な勤務地、担当する業務の内容を明記します。
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項
- 所定労働時間、休憩時間、法定休日(週1回または4週4回以上)、所定休日(会社が定める休日)、年次有給休暇、その他の休暇(慶弔休暇など)について定めます。
- 賃金に関する事項
- 基本給の金額、各種手当(通勤手当、残業手当など)の有無と金額、計算方法、支払いの方法(振込など)、締め日、支払い日を明確にします。
- 退職に関する事項
- 退職の申し出に関するルール、解雇の事由と手続きについて定めます。
これらの項目は、後述する「労働条件通知書」として書面で交付する義務があります。
雇用契約書に任意で盛り込むと良い項目はありますか?
必須項目以外にも、スタートアップの特性や事業内容に応じて、以下の項目を盛り込むことで、よりスムーズな事業運営とリスク管理に繋がります。
- 秘密保持義務
- 会社の顧客情報、技術情報、経営戦略などの秘密情報を漏洩しない義務を従業員に課します。スタートアップにとって、事業の根幹に関わる重要な情報保護の条項です。
- 知的財産権の帰属
- 従業員が職務上開発したプログラム、デザイン、アイデアなどの知的財産権が会社に帰属することを明確にします。特に技術系のスタートアップでは非常に重要です。
- 競業避止義務
- 退職後一定期間、会社と競合する事業に従事したり、競合他社に就職したりすることを禁止する条項です。会社のノウハウや顧客情報が競合に流出するのを防ぐ目的があります。
- 試用期間
- 従業員の能力や適性を評価するための期間を設ける場合に定めます。一般的に3ヶ月から6ヶ月程度が設定されることが多いですが、試用期間中であっても解雇には合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。
- 服務規律
- 就業時間中の行動規範(ハラスメントの禁止、情報セキュリティ規則の遵守など)を定めます。
これらの項目は、会社の重要な資産を守り、従業員が適切な行動規範を理解するために役立ちます。
雇用契約書を作成・締結する際の注意点は何ですか?
雇用契約書を作成し、従業員と締結する際には、いくつかの重要な注意点があります。
- 労働条件通知書の交付義務
- 労働基準法により、会社は雇用契約締結時に、主要な労働条件(前述の必須項目など)を従業員に書面で明示することが義務付けられています。雇用契約書がこの役割を兼ねることも可能です。
- 労働基準法などの遵守
- 雇用契約書の内容は、労働基準法をはじめとする労働関係法令に違反してはなりません。例えば、法定労働時間を超える労働を無制限に課したり、最低賃金を下回る賃金を定めたりすることはできません。法令に違反する部分は無効となり、法令が定める基準が適用されます。
- 就業規則との整合性
- 常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。雇用契約書の内容は、就業規則と矛盾しないように作成する必要があります。従業員数が10人未満の場合でも、就業規則を作成しておくことで、より明確なルール運用が可能になります。
- 十分な説明と合意
- 雇用契約書の内容は、従業員が十分に理解できるよう、丁寧に説明することが重要です。不明な点があれば質問に答え、納得の上で署名・捺印してもらいましょう。
- 専門家への相談
- 雇用契約書は法的な文書であり、その内容は会社の法的リスクに直結します。初めての作成や内容に不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士といった専門家に相談し、レビューを受けることを強くお勧めします。
まとめ
初めての従業員を迎え入れる際の雇用契約書は、単なる形式的な書類ではありません。会社の成長を支える大切な基盤を築くための、重要なステップです。必須項目を漏れなく記載し、会社の特性に応じた条項を盛り込むことで、将来的なトラブルを避け、従業員が安心して活躍できる環境を整備することができます。
労働基準法などの関連法令を遵守し、不明な点があれば専門家の意見を聞くなど、慎重な対応を心がけてください。適切な雇用契約書の作成は、スタートアップの持続的な成長に不可欠な要素です。