NDA(秘密保持契約)とは?スタートアップが知っておくべき基本と注意点
スタートアップの事業活動において、自社のアイデアや技術、顧客情報といった秘密情報を外部に開示したり、他社から秘密情報を取得したりする機会は少なくありません。このような状況で、重要な情報を守るための法的枠組みとなるのが「NDA(秘密保持契約)」です。本記事では、スタートアップ経営者がNDAについて知っておくべき基本的なポイントと、契約締結時の注意点について解説します。
NDA(秘密保持契約)とは何か
NDAは「Non-Disclosure Agreement」の略で、日本語では「秘密保持契約」と訳されます。これは、契約当事者間で特定の情報(秘密情報)を共有する際に、その情報が第三者に漏洩したり、契約で定められた目的以外に利用されたりすることを防ぐための法的な合意書です。
スタートアップにとって、事業アイデアや技術、ビジネスプランなどはまさに競争力の源泉であり、その秘密性が失われることは事業の存続に関わるリスクとなり得ます。NDAは、このような重要な秘密情報を保護し、安心して事業を進めるための土台となる契約と言えるでしょう。
スタートアップがNDAを締結すべきタイミングと相手
NDAは、主に以下のような状況で締結を検討する必要があります。
- 共同創業者候補との事業アイデアの共有: 事業の根幹に関わるアイデアや計画を深く議論する際に。
- 初期開発を委託する外部のエンジニアやデザイナー: プロダクトの仕様や技術的詳細、デザイン案などを開示する際に。
- 提携候補企業との協議: 新規事業の共同開発や業務提携を検討するにあたり、お互いの事業戦略や技術情報を共有する際に。
- 投資家との面談: 資金調達のためにビジネスプランや財務情報、技術の詳細を開示する際に。ただし、多くのベンチャーキャピタルはNDA締結に応じないケースも多いため、開示範囲を検討する必要があります。
- 従業員の採用: 採用した従業員が職務上知り得る秘密情報を守るために、雇用契約書に秘密保持条項を盛り込む、または別途NDAを締結する際に。
これらのケースでは、情報の開示に先立ってNDAを締締結し、秘密情報を適切に保護することが重要です。
NDAで特に確認すべき重要な条項
NDAを締結する際には、以下の点について特に注意して内容を確認しましょう。
- 秘密情報の定義: 何が「秘密情報」として保護されるのかを具体的に定める最も重要な部分です。口頭で開示された情報や、電磁的記録も含むのかなど、明確な定義がされているか確認してください。
- 秘密保持義務の範囲: 秘密情報をどのように取り扱うべきか、複製や加工の制限、従業員への開示範囲などを定めます。
- 目的外利用の禁止: 開示された秘密情報を、契約で定められた目的(例えば「事業提携の検討」)以外に利用してはならないことを明確にします。
- 秘密保持義務の例外: 公知の情報や、開示される前から既に保有していた情報、正当な権限を持つ第三者から秘密保持義務を負わずに取得した情報など、秘密保持義務の対象外となる情報を定めます。この例外規定は、情報を受け取る側にとって非常に重要です。
- 有効期間: 秘密保持義務がいつまで続くのかを定めます。事業の性質にもよりますが、数年間の期間が設定されることが一般的です。
- 損害賠償: 秘密保持義務に違反した場合の責任や、損害賠償に関する取り決めです。
- 準拠法・合意管轄: 契約の解釈に適用される法律や、紛争が発生した場合に裁判を行う裁判所を定めます。日本国内のスタートアップであれば、通常は日本の法律を準拠法とし、日本の裁判所を合意管轄とするでしょう。
- 返還・破棄: 契約終了時や秘密情報が不要になった際に、開示された秘密情報を返還または破棄する義務について定めます。
これらの条項が自社の状況や目的に合致しているか、特に不利な内容になっていないかを確認することが重要です。
片務契約と双務契約
NDAには、情報を開示する側(開示者)と受け取る側(受領者)のいずれか一方のみが秘密保持義務を負う「片務契約」と、両当事者が互いに秘密保持義務を負う「双務契約」があります。
- 片務契約: スタートアップが一方的に情報を開示する場合(例:投資家への事業説明)に用いられます。
- 双務契約: 相互に情報を開示し合う場合(例:共同開発の検討)に用いられます。
自社が情報の開示者・受領者のどちらの立場に立つのか、あるいは双方であるのかによって、適切な形式のNDAを選択し、契約内容を調整する必要があります。
テンプレート利用時の注意点と専門家への相談
インターネット上にはNDAのテンプレートが多数存在しますが、これらを安易に利用することは推奨されません。テンプレートはあくまで一般的なひな形であり、個々の事業内容や取引の状況に合わせてカスタマイズされていません。
特に、スタートアップのビジネスモデルや開示する秘密情報は多岐にわたるため、テンプレートをそのまま利用すると、肝心な情報が守られなかったり、逆に不必要な制約を負ったりするリスクがあります。
NDAは、事業の根幹を守るための重要な契約です。不明な点がある場合や、複雑な取引においては、弁護士などの専門家に相談し、自社の事業に合った適切なNDAを作成・レビューしてもらうことを強くお勧めします。専門家への相談は初期費用がかかるかもしれませんが、将来的なトラブルを未然に防ぎ、安心して事業に集中するための有効な投資と言えるでしょう。
まとめ
NDA(秘密保持契約)は、スタートアップの重要な資産である秘密情報を保護するための、基本的ながらも非常に重要な契約です。
- 事業アイデアや技術、顧客情報などの秘密情報を外部に開示する際には、必ずNDAの締結を検討してください。
- NDA締結時には、「秘密情報の定義」「目的外利用の禁止」「有効期間」など、重要な条項を注意深く確認しましょう。
- テンプレートの安易な利用は避け、必要に応じて専門家のレビューを受けることで、自社の事業を適切に保護してください。
適切なNDAの締結と運用は、スタートアップが成長していく上で不可欠なリスク管理の一つです。この基礎をしっかりと押さえ、自信を持って事業を推進していきましょう。